インフラシェアリングを知る column

2024.01.19

【第6回】インフラシェアリングに関する政策アプローチと現在地

今回のコラムでは、インフラシェアリングに関する総務省の政策を取り上げます。
インフラシェアリングという言葉は、ここ最近出てきた言葉ですし、インフラシェアリングの実質的な提供形態はあったものの、しばらく事業としての分類は明確にはされていませんでした。このような新たな事業形態で新規参入が行われてきたものとしては、2000年前後からでは、ADSLサービス、MVNO、そしてインフラシェアリングといったところでしょうか。これらの事業形態は、それぞれが有するサービス面での特徴や参入障壁があり、政策面でも事業の推進に向けた様々なアプローチが行われてきました。
インフラシェアリング事業に対して、情報通信を管轄する総務省ではどのような政策アプローチを取ってきたのか見ていきましょう。

法令の障壁をなくし、新たな参入への呼び込みに

5Gの導入に向けて、5Gで利用する周波数帯域が従来の3G/4Gよりも高い帯域(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯など)であり、インフラ整備には必ずしも適さないため、より効率的な整備手法の一つとしてインフラシェアリングが注目されてきた経緯がありました。

総務省でも、まさにこの点に着目し、5G向けの周波数割当ての検討を行っている中で、インフラシェアリングを活用、推進するための政策面でのアプローチが行われてきました。

それでは、それぞれの施策を時系列で解説していきます。

① インフラシェアリングガイドラインの策定

  • 2018年12月策定
  • 2022年8月改正

行政機関が通常策定する“ガイドライン”には、様々な位置づけのものがあります。例えば、法令に基づく行動基準、法令の解釈基準、場合によっては、法令に規定するまではいかないものの行動規範を示すもの、などです。
今回のインフラシェアリングガイドラインについては、インフラシェアリング事業に対する法令の解釈を整理したものです。
通信サービスを規律する主な法律としては、電気通信事業法、電波法があり、それぞれ、事業面(事業参入や事業活動に対する規律)、電波の利用面(無線局免許の取得や運用)に関する内容が定められています。インフラシェアリングガイドラインでは、インフラシェアリング事業が、電気通信事業法、電波法でどのように扱われるかを整理しています。


大まかには以下のような区分が設けられています。

  • 鉄塔等構造物の提供形態:電気通信事業には該当しない、及び無線局免許の手続きを要しない
  • 通信機器の提供を含む形態:電気通信事業の手続きが必要、無線局免許の取得要件の有無によって手続きが必要 など

一つひとつの説明は、今回のコラムの趣旨ではないため割愛します。

筆者はこのガイドラインには2つの意味があると考えています。

1点目は、インフラシェアリング事業に新たに参入しようとする事業体の検討目安になるということで、このガイドラインを通じて、法律の専門家に確認しなくても自分達が行おうとしている事業形態の法令上の扱いを、おおよそとはいえ、つかむことができます。

2点目は、インフラシェアリング事業について、従来の法令を変更したり、新たな規律を設けたりする必要がないことを明確にしていることです。
一般的に新規事業は、法令の障壁があるケースが多いと思われますが、インフラシェアリング事業については、現行の法令の解釈を明確化することで、こうした法令の障壁をなくしたということです。
最近のわかりやすい例ではライドシェアでしょうか。もう10年程度も前から参入したい事業体はあるものの、現行の法令では対応できず、未だに導入されていません。

ガイドラインが策定された2018年は、5G向けの周波数帯域の割当てが行われる前のタイミングであり、インフラシェアリング事業の認知が上がりつつあった頃です。総務省がガイドラインを作成し、新規参入や導入への道筋をつけたことは、アーリーステージで活性化を狙った良手だったと思います。

役割への期待

 携帯電話等エリア整備事業(補助金)の緩和

  • 2021年12月 携帯電話等施設高度化事業(4Gから5Gへのアップグレード)にインフラシェアリング事業者を追加、及び補助率の優遇を規定
  • 2023年3月 携帯電話等施設整備事業(携帯電話の不感地域への対策)にインフラシェアリング事業者を追加、及び補助率の優遇を規定

総務省では、これまで通信環境が十分ではなかった地方エリアなどの「条件不利地域」や、道路トンネル、鉄道トンネル、医療施設など電波が遮られる場所への携帯電話の整備を後押しする補助金制度を設けています。
この制度では従来、補助金の受け取り手となる事業主体は、地方自治体、携帯電話事業者、一般社団法人等となっており、インフラシェアリング事業者は、対象にはなっていませんでした。
この点について、2021年から2023年にかけて、段階的にインフラシェアリング事業者への門戸が開かれてきました。また、複数の携帯電話事業者によるインフラシェアリングでの対策の場合は、事業費の補助率が2/3となっており、単独での対策(補助率は1/2)よりも優遇されています。
JTOWERでも、この補助金制度を活用して、主に地方エリアでのシェアリング用の鉄塔等構造物の整備を行っています。

JTOWERが補助金を活用し、東京都島しょ部の神津島村に建設した設備


この補助金制度は、携帯電話のインフラが整備されにくい条件不利地域に対して、インフラシェアリング事業者を介して整備を促進するものであり、政策の目的と効率的なネットワーク整備が実現するというインフラシェアリングの役割が一致したことから、緩和が実現したものと理解しています。

なお、この補助金制度のうち、遮へい対策事業については、まだ「一般社団法人等」のみに限られており、いわゆるインフラシェアリング事業者は制度が活用できません。インフラシェアリング市場の活性化や役割への期待を高める意味でも、緩和に向けた検討が期待されます。

③ デジタル田園都市国家インフラ整備計画での言及

  • 2022年3月公表

デジタル田園都市国家インフラ整備計画は、政府の成長戦略であるデジタル田園都市国家構想に基づいて策定されたものであり、光ファイバ、5G、データセンター/海底ケーブル等を、成長をけん引するインフラとして位置づけ、その整備方針や推進施策がまとめられています。
インフラシェアリングは、5G整備の推進施策の一つとして取り上げられており、以下の内容が具体的な取組みとして規定されています。

  • ②であげた携帯電話等エリア整備事業(補助金)の拡充
  • 携帯電話事業者が共用可能な無線装置の開発
  • 基地局設置に資する公有資産のデータベース化、地域単位(全11エリア)での協議会の設置
  • ①であげたインフラシェアリングガイドラインの改正

なお、地域単位での協議会設置は既に行われており、5Gのエリア整備や光ファイバの敷設推進に向け、総務省、地方自治体、通信事業者などで検討が進められています。JTOWERも、全11エリア中9エリアの協議会に参加しています。

この政策についても、政策の目的とインフラシェアリングの役割が一致したことから、施策として取り上げられているものです。

政策基準への採用

 電波の有効利用評価方針での評価項目の規定

  • 2022年9月策定
  • 2023年7月改定

あまり一般的には知られていないかもしれませんが、総務省に設置されている電波監理審議会では、毎年度、携帯電話等における電波の有効利用の度合いを評価する有効利用評価が行われています。

この施策は、電波割当のPDCAサイクルの“Check”機能であり、割当てられた公共資産である電波が各携帯電話事業者で無駄なく使われているかを経年比較、検証した上で、次の新たな割当てのアクションにつなげていくために行われているものです。市場の成長により、利用可能な周波数帯域の拡大が必要とされていくという、携帯電話市場ならでの施策です。

この有効利用評価を行うための基準を定めたのが有効利用評価方針であり、その評価基準の項目として「5G基地局におけるインフラシェアリング」が規定されています。取組みへの評価が高ければ、有効利用が進んでいることになる訳ですが、インフラシェアリングという用語が、行政機関の評価項目として取り上げられるようになったことは、政策面でも根付いてきている証ではないかと考えています。

インフラシェアリング市場の底上げに向けて

このコラムでここまで見てきた政策面での取組みは、下図のような時系列になります。インフラシェアリングへの注目度が高まるにつれて、政策面での取組みが活発になってきていることがわかります。

(総務省資料をもとに当社作成)

それでは、今後、インフラシェアリング市場の更なる活性化に向け、期待される政策面でのアプローチとは、どのようなものでしょうか。

一つは、インフラシェアリングの形態が進化していくことに伴い、既存の規制や政策の枠組みが障壁になるケースが出てくる可能性が高いので、それをタイミング良く速やかに解消していくこと。

そしてもう一つ、日本ではインフラシェアリング市場の形成が諸外国と比べて大きく立ち遅れたこともあり、未だ事業者の数も少なく規模もさほど大きいとは言えません。そのため、継続的な活性化のための政策(底上げ)が必要という点です。(この点においては、後日のコラムでも深堀りしたいと考えています。)

今回のコラムでは、インフラシェアリングを巡る政策面のこれまでと今後を見てきました。事業を大きく育てるためには、事業側の創意工夫や切磋琢磨は言うまでもありませんが、事業側が政策を引き出す動きを行うなど政策との連携や協調を進めるといった観点も日本では無視できないと考えています。

※記事中の内容は公開時点のものとなります。

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