インフラシェアリングを知る column

2023.08.16

【第2回】インフラシェアリングを提供する主体~多様な事業者の参入で広がるインフラシェアリング市場

今回のコラムでは、携帯電話ネットワークのインフラシェアリングを提供している主体について紹介していきます。
昨今、インフラシェアリングへの注目度が高まり、様々な業種からの参入とともに、提供する主体の特徴を活かした幅広いサービスが出てきたことは第一回のコラムでも説明しました。
ここで紹介するインフラシェアリング事業者は、携帯電話事業者の構築物を含むネットワークの一部、もしくは付帯する業務を複数の携帯電話事業者向けに提供している事業を対象としています。

携帯電話事業者主導の事業体と独立系の事業体

シェアリングを提供する主体を紹介する上で、大きな分類として「携帯電話事業者主導の事業体」と「サードパーティ(独立系)の事業体」の2つがあります。

携帯電話事業者主導の事業体

(1)公益社団法人移動通信基盤整備協会(JMCIA)

  • 設立:1994年9月27日
  • 正会員:26 (2023年6月15日現在)

この協会は、主として携帯電話事業者によって運営されています。事業の特徴としては、道路トンネル・鉄道トンネル内、地下鉄・地下街、医療機関などの公益事業として認められる範囲で、携帯電話ネットワークの共用設備を構築していることです。また、事業の一部は、国が設備費用の一部を補助する「電波遮へい対策事業」により実施されています。

事業の範囲は非常に広く、携帯電話が多く利用されるエリアが対象になっているため、携帯電話サービスの品質にも大きく関わります。

(2)株式会社5G JAPAN

  • 設立:2020年4月
  • ソフトバンク株式会社とKDDI株式会社による合弁会社として設立

5G JAPANは、携帯電話市場のライバル会社である2社で設立されており、日本では画期的な事業体です。事業の具体的な内容について、詳細は公表されていませんが、共用設備をこの会社で新たに保有し設置するのではなく、ソフトバンクとKDDIそれぞれが保有する携帯電話の設備を相互に利用できる環境を構築する、いわゆるハブ機能を有する事業が主ではないかと考えています。

サードパーティ(独立系)の事業体

サードパーティの事業体は、昨今、様々な業界からの参入が見られます。それぞれの特徴を、さらに細分化して見ていくことにします。

 

<ベンチャー系>

(1)株式会社JTOWER

  • 設立:2012年6月15日

JTOWERは、携帯電話ネットワークの共用を事業とすべく設立されました。創業当時は、インフラシェアリングへの理解どころか用語も一般的ではなかった時期。ベンチャーということも相まって、携帯電話事業者の理解を得ることは容易ではありませんでしたが、屋内のインフラシェアリングから実績を積み重ね、創業から10年で、屋外のタワーシェアリングまで事業の拡大を進め、日本におけるインフラシェアリングの市場を切り開いてきました。

また、この間、NTT(持株会社)に加え、NTTドコモ、KDDI、楽天モバイルから出資を受けるなど、携帯電話事業者との連携強化を図っています。

 

<商社系>

(2)Sharing Design株式会社

  • 設立:2021年2月22日

住友商事(現在は住友商事100%子会社のSC5G株式会社)と東急株式会社による合弁会社として設立されました。住友商事は、ケーブルテレビ事業をはじめ国内外での通信事業の実績があり、総合商社ならではのバリューチェーンを活かした事業展開が見込まれます。

 

<施設オーナ系>

施設のインフラ整備を促進する観点で、ディベロッパーや施設のオーナがインフラシェアリング事業に参入しています。既存事業との親和性が高く、顧客への価値向上に直接つなげられることが、この事業者ならではの特徴です。

(3)三菱地所株式会社

  • 2022年1月26日に「5Gインフラシェアリング事業への参入」を発表

三菱地所は、不動産の価値向上に長けたディベロッパーとしての強みを活かし、インフラシェアリング事業に参入しました。今後は、三菱地所が所有・運営する不動産以外でも、エリアにおける不動産価値の向上を目指し、屋上等に5G基地局を設置する際の設備基盤を共用化することで、5Gのエリア化を進めるとされています。

(4)東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)

  • 2023年6月20日に「インフラシェアリング事業による鉄道沿線 5Gエリア化」を発表

JR東日本は、従来、鉄道会社として業務用の無線通信ネットワークの構築、運用を行っており、無線通信分野の知見を有しています。その知見も活かし、鉄道利用者に向けた価値向上を目指し、駅構内や駅間に共用設備を設置することで、5Gの早期整備を進めるとされています。

 

<外資系>

(5)Tower Pods合同会社

  • 設立:2020年1月15日

オーストラリアを中心に展開するタワー会社であるレンドリースグループの子会社として設立されました。タワー会社としての強みを活かしタワーシェアリング事業を進めていくとされています。

 

サードパーティの新たな価値創造が市場拡大の鍵に

ここまで、シェアリング事業を提供する多様なプレーヤーを紹介してきましたが、インフラシェアリングの市場規模は、携帯電話事業者の設備投資規模から見ても、まだまだ非常に小さいものです。正確な市場調査はまだ存在していませんが、携帯電話事業者4社の年間の設備投資額が2兆円を超える規模にのぼる中、インフラシェアリングが占めるのはうち数%未満だと考えられています。

携帯電話事業者の設備投資額の推移
(総務省資料より当社作成)

インフラシェアリングに対する社会的なコンセンサスをさらに醸成し、市場の拡大を目指すことは、シェアリングの効果を高めていく取組みとして、引き続き必要なことだと考えます。

※記事中の内容は公開時点のものとなります。

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