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徳島県「徳島県立中央病院」
ローカル5G 2022年12月導入
医療施設 -
- 所在地
徳島県徳島市
- 延床面積
36,677.7m²
- 構造
地上9階
ローカル5Gとキャリア5G、強みを生かしたハイブリッドな5G環境で目指す医療DX
全国でも屈指の光ブロードバンド網を活かし、積極的なDX施策を進めていることで知られる徳島県。2022年に、ローカル5Gとキャリア5Gの通信設備を共用化できるJTOWERのローカル5G共用装置を、国内で初めて徳島県庁と徳島県立中央病院に導入いただきました。JTOWERの設備導入の決め手や実際の活用シーン、また、今後の5Gを活用したDX推進の方針などについてお話をうかがいました。
お話をうかがった方
- 徳島県政策創造部 地方創生局
デジタルとくしま推進課長
阿部 篤 様
- デジタルとくしま推進課 基盤整備担当
主席
佐光 広格 様
- デジタルとくしま推進課 基盤整備担当
専門員
阿利 政徳 様
医師が県東部に集中していた課題から病院間連携の5G活用が進む
― 徳島県は、全国でも早期にローカル5G免許を取得するなど、通信環境整備とその基盤を活用した取り組みを積極的に進められています。通信環境整備に関するこれまでの方針と取り組みについて教えていただけますでしょうか。
徳島県はもともと山地が多い地形で、テレビは関西からの電波が海を越えて届いていたのですが、地上デジタル放送への移行で電波が届かなくなることが見えていました。そこで、当時の飯泉知事のリーダーシップのもと、ケーブルテレビでつないで関西等県外の放送を従来どおり見られるようにしようという「全県CATV構想」を進め、2010年には、県全域に光ブロードバンド網が張り巡らされました。これによって、テレビだけでなく、IP電話やインターネットの通信環境が整備され、2012年頃からは、豊かな自然環境と日本屈指のブロードバンド環境を強みにサテライトオフィスの積極的な誘致を県としても進めてきました。
こうした通信網を活かしローカル5Gにもいち早く取り組み、免許(予備免許)取得は全国の自治体の中でも初となりました。以降、県内に14か所の基地局を設置し、現在では、医療、防災、農林、産業、様々な領域での活用に向け検証を進めており、特に医療分野では本格的な活用が進んでいます。
開始当初はローカル5Gで期待していた性能が出ず、4K動画もうまく伝送できなかったりと試行錯誤が続きましたが、徐々に改善が進みました。10 Gbpsの光ネットワークとの組み合わせで、高い通信品質を実現できる環境が整いました。
特に医療分野で活用が進みつつある8K動画も伝送が可能となりました。当初は、無線をテストしたものの光(有線)の安定度には遠く及ばないという状況でしたが、あと2年もすれば、医療現場でもタブレット端末の活用が当たり前になっていくことを見据え、無線の環境を重視した取り組みを進めています。
ローカル5Gの推進にあたっては、実験的に取り組む施策だけでなく、全県的にアイデアを出していき、効果が期待できそうな領域には積極的に取り入れていこうという方針としました。民間の企業は、まだ使えるかわからないものに投資をすることは難しい。そのため、県主導で、公的なものから進めていく方針としました。
― 医療領域では中でも積極的な活用が進んでいます。
徳島県はもともと医師が県東部に集中しているという課題があり、県南部では平成25年頃から、徳島県立海部病院を中心に、海部郡と那賀町の病院のネットワーク化が進んでいました。ここでスマホアプリを使った救急体制の連携などが進んでいましたが、なかなか使い勝手が悪いと改善要望があり、そうした動きが下地となって、ローカル5Gの推進とともに、ドクター主導で病院間連携での活用が進んでいきました。
ローカル5Gを核に共用装置でキャリア5Gを同時に整備
― このように積極的な5G推進を進める中で、JTOWERのインフラシェアリングにご注目いただいたのはどのような点だったのでしょうか。
ローカル5Gの展開を検討していたとき、メディアでよくJTOWERの活躍を見るようになり、興味を持ちました。中でも、ローカル5Gとキャリア5Gのインフラをまとめられるというのは、私たちがやりたいことと合致したんです。
ローカル5Gの構想を形にしていく上でもまず欠かせなかったのは、携帯キャリア各社が提供する「キャリア5G」をどう誘致していくか、ということでした。多くの一般の県民の皆さんにとって専用回線であるローカル5Gは魅力がなく、必要なのは携帯キャリアのサービスです。しかし、例えば工業団地を建設しようとしても、携帯キャリアが5Gを導入してくれることはまずありません。光ファイバーがあれば、それだけで企業が来てくれるというものでもない。
そこで、ローカル5Gを核にして、施設側でキャリア5Gにも対応したアンテナシェアリングの準備をすれば、携帯キャリアは膨大な投資が必要なくなり、誘致が進むのではないかと考えました。あらかじめ、キャリア5 Gを含めて整備を行っていくという考え方です。
― ネットワークエリアの増設にもご評価いただいておりますが、どのような点にメリットを感じていただいておりますでしょうか。
ローカル5G共用装置のもう一つのメリットは、ネットワークエリアを広げるための増設に対する考え方です。基地局を増やしてエリアを広げていく方法だと費用がかなりかかりますが、JTOWERの共用装置は光中継DAS(※)システムで共用アンテナを増やし、柔軟に電波をふけるし、費用も圧縮することができます。
※DAS(Distributed Antenna System):分散型アンテナシステム
ローカル5Gだけでなく、5G全体でも同じことが言えると思いますが、その特徴である「大容量」「低遅延」までは実現できていても、「多数同時接続」は対応できていないと思います。そこで基地局を増やすのは非現実的なやり方です。基地局の数は最低限にして、使いたい範囲をアンテナで割っていくのが正解だと私たちは考えました。現状ではアンテナを増やしても通信速度は変わりませんし、複数の端末の同時接続も問題ありません。アンテナを増やしても干渉することもなく、アンテナ間で切れることもないですし、使いやすいですね。
JTOWERのローカル5Gの共用装置は、当初はサイズが大きいと感じていたのですが、この大きさに意味があって、とても静かだということに驚きました。放熱のためにファンの機能を備えると、小さい装置ではまかなえない。特に、オフィス環境では、そこで働いている方が気にならないように装置の稼働音が大切です。
徳島県立中央病院では、ちょうどER棟を建設しているタイミングでもあったので、広範囲で活用するにはインフラシェアリングが有効でした。
現在では県内15の公的医療機関を光ファイバーで結んで遠隔診療を提供する動きが広がっています。徳島県立中央病院では、ER棟全体をカバーする形で5G網を構築しており、外来診療のメニューとして、遠隔での診察数を増やすことにも柔軟に対応できています。例えば内視鏡の遠隔診療でも、モニターだけ持っていけばER棟内どこでもすぐに始められます。有線ではない自由度はかなり大きいようです。
医療、産業分野で8K映像の活用も視野に
― ローカル5Gとキャリア5Gのハイブリッドな5G環境を活用し、どのような取り組みが実現するのでしょうか。
令和4年度の総務省「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」で徳島県を含むコンソーシアム提案の「高精細映像伝送による院内ICU等の遠隔モニタリング及び救急医療連携の高度化に関する実証」事業が採択され、キャリア5Gとローカル5Gを活用した実証を行いました。
この実証では、外を走り回る救急車との連携はキャリア5Gを、病院内や県内の病院間ではローカル5Gで接続し連携して救急医療にあたるという取り組みです。救急車からは、キャリア5Gを活用し、救急患者の4K映像や心電図等のデータが病院に共有され、また病院間ではローカル5Gを活用し、医療用テレメータとの電波混信を防ぎながら、高精細動画といった大容量のデータを安全な環境でやりとりすることが可能となります。
今後は、病院内でもキャリア5Gを活用し、医師が所有しているスマートフォンやタブレットからも遠隔診療の画像診断や助言を行えるようにすることも視野に入れています。
― 5Gを活用したDXについて、徳島県では今後、どのような展望を描いているのでしょうか。
今後は5G環境を活用し、より高度な医療への活用を進めていきたいと考えています。2025年に開催される大阪・関西万博の徳島パビリオンでは、8K映像を活用した遠隔医療技術に関する展示を行う予定です。通常の手術であれば4Kでも十分ですが、脳外科等、より高精細な映像が必要とされる手術では、やはり8K映像の情報量が求められます。8Kに対応する機器の開発も進んできており、遠隔先端医療への対応は今後も更に進化を続けていきます。
こうした映像伝送技術は、医療以外の分野での活用も視野に入れています。例えば産業領域では、製造業でのエラー検知、品質検査などで、より高精細な映像が必要とされています。また防災分野でも、河川監視でのドローン運用等、既に試験的な取り組みが始まっている例もあります。
徳島県では、世間のニーズを追い越す形で、今後も5G基盤を活かした幅広い領域でのDXを進め、地方創生を実現していきたいと考えています。